早稲田大学 理工学術院総合研究所 Research Institute for Science and Engineering

エネルギーシステム工学を駆使して次世代エネルギーに挑む 天野嘉春弘教授

1エネルギー問題

エネルギー問題は、非常に広い範囲の問題群を包含するため単純明快な解を求めることは困難です。
一方で、私たちの生活が快適なのは、エネルギー資源が驚くほど低価格で手に入るからです。W.D. Nordhausは、1000[lu.h]の光源の価値を丹念に調査しています(1)。紀元前1750年ごろ、バビロニア時代の寺院で使われていた照明は、ごま油を燃料としたランプによるもので、1000[lu.h]、すなわち蠟燭2本40時間分の光は、当時の41.5時間分の労働対価に相当していました。この高級な「光」は、産業革命後に劇的に安価になり、今日ではバビロニア時代の100万分の1にも満たないまでになりました。私たちの社会はずいぶん進化したものです。ここで、産業革命期に急激な低価格化をもたらしたのは、蒸気機関などの機械化だけによるのではなく、採掘技術の向上と化石燃料の入手性の向上がポジティブフィードバックを形成し、最終的に安価な化石燃料が入手できる社会システムが出来上がったことが根本原因なのです。現在入手可能な安価な化石燃料を代替するエネルギー資源を、将来にわたって継続して入手不可能ならば、現在の快適な生活は持続できません。そしていまだに決定的に安価な代替エネルギー資源を利用する社会システムが見つからないのが、私たちの直面しているエネルギー問題の本質ととらえることができます。

2地球上で利用可能な1次エクセルギー量

地球上で利用可能な1次エクセルギー資源量
図1 地球上で利用可能な1次エクセルギー資源量(2)

図1はW. Hermannがまとめた(2)地球上で利用可能なエクセルギー資源量です。最も大きいものは、太陽の寿命が尽きるまで残り50億年として、地表面に到達する太陽放射由来のエクセルギーで5.5×1034[J]としています。太陽放射に次ぐ、大きな1 次エクセルギー資源は地熱由来で2×1031[J]。地熱エクセルギーストックの補充にかかる時定数は数日から数年のオーダーとされています。

地球上で入手可能な核物質由来のエクセルギー量は、地熱の半分程度であり、資源としては核融合燃料としての重水素が最も多く、1×1031[J]。しかし、核燃料資源は補充時定数無限大のストックであり、地球上で自然に補充することは不可能です。

地球の自転に由来する運動エクセルギーは5×1029[J]で、太陽放射に由来するエクセルギーより4桁も低くなります。

図2からエクセルギーフローは太陽光由来が圧倒的に多く、ストックとして利用技術が成熟している化石燃料では、メタンクラスレートの埋蔵量が、石炭、石油、ガスに比べて魅力的に映ります。このように見ていくと、経済性を加味した詳細な検討が必要ではありますが、将来は、どうしても太陽放射由来のエネルギー変換システム、地熱、あるいは地球上に太陽を造る(核融合)技術を持続可能な社会の基盤とすべきことが分かります。しかし、特に核融合の開発は、なかなか突破口が見いだせていないようです。そうなると、まだしばらくは、手に入る安価な化石資源を無駄なく利用する工夫も怠ることができないのです。

図2 地球上で利用可能なエクセルギーフロー、貯蔵、損失及び利用量 (2)
図2 地球上で利用可能なエクセルギーフロー、貯蔵、損失及び利用量(2)

3研究内容

高効率な単品の機械を開発するだけでは解決しないとなれば、少なくともいろいろな要素を組み合わせて、きめ細かく対処せねばなりません。そのためには、エネルギー利用の現状をよく検討し、将来的に持続可能な社会に必要な技術を開発せねばなりません。

本研究所のエネルギーグループが研究対象とするのは、主に以下の二つです。

  1. 本質的に高効率なエネルギー変換にかかわる研究
  2. エネルギーの利用形態を考慮した最適設計手法の研究

すなわち、制御工学を基盤とした、要素開発とシステム化にかかわる方法論の研究の2本立てです。

4ヒートポンプ

図3 連続処理VCC 試作機(3)
図3 連続処理VCC 試作機(3)

熱力学の原理からは、環境温度近傍の熱利用には、ヒートポンプを使用することが本質的に効率の高いエネルギー利用方法です。例えば蒸発脱水プロセスは、水の蒸発潜熱が約2.3[MJ/kg]と非常に大きく典型的なエネルギー多消費プロセスです。ここに、日野俊之招聘研究員(東大 生研)と共に開発しているオープンヒートポンプサイクルを適用することで、従来型の熱風乾燥方式の5倍以上のエネルギー効率で脱水するシステム(図3)を提案(3)しています。

5コージェネレーション

ヒートポンプとよく比較される技術が、コージェネレーションです。コージェネレーションは、一般に発電装置から副産物として出てくる排熱を無駄にしないで使い切るところに、省エネルギー性があります。その意味では本質的に投入したエネルギー以上の便益を得ることは不可能です。また熱電比が機器特性としてほぼ固定されていますから、需要の熱電比に整合させるためには、容量要素に蓄積し、必要なときに放出するシステムとして組み上げ、いつ、どのようにためるかといった運用にも設計時に配慮する必要があります。

図4 アドバンスト複合発電システム
図4 アドバンスト複合発電システム

本研究室では1997年度から2007年度まで、800kWスケールの研究用コージェネレーションシステムを喜久井町キャンパスに設置して、発電所として正式運用しながら実験研究を行ってきました(図4)。高効率な排熱利用を意図した3段のタービンシステム(ガスタービン、蒸気タービン、アンモニア・水混合媒体タービン)のボトミングに設置したKalinaサイクルは吸収式動力サイクルとでもいうべきものです。吸収式冷凍機と熱力学的に逆サイクルの関係にあることに注目して、両者をハイブリッド化することによって、それぞれ単独サイクルの高効率化では到達できないほどの効率向上が可能であることを理論的に提示し、それを実証しました。熱力学的には、この発電・冷凍ハイブリッドサイクルは、熱駆動による広義ヒートポンプサイクルとして理解することができます。また理論的な最高効率ではなく、最高出力を実現するサイクルとしての考察が、排熱回収型の熱力学サイクルの評価にとって重要であるとの観点から、温度とエントロピーフローとの関係から理論的に考察する手法を提案しています。

6最適運用と最適制御

一般に制御工学が対象とするのは、動的システム、すなわち何らかのダイナミクスを扱いますが、その心は、なにもダイナミクスだけにとどまりません。論理あるいはイベント駆動型の準静的システムの振る舞いについても、所要の目的を果たすためには、どのようなシステム構造とすべきか、制御工学の立場から考察することが可能です。制御理論もこれに応えるハイブリッドシステムの理論へと拡張されてきています。これらの成果をシステム設計のためのツールとして積極的に援用する仕組み、フレームワークについての研究を2008年ごろから開始しました。

日本における家庭用エネルギーシステムの商品種類の豊富さは、他に追従を許さないほどの充実ぶりです。燃料電池(PEFC:固体高分子型とSOFC:固体酸化物型)コージェネレーションシステム、ガスエンジン・コージェネレーションシステム、潜熱回収型ガスボイラー、ヒートポンプ給湯器、太陽熱温水器、太陽光発電装置、家庭用蓄電池など。ユーザーとして、私たちはどの機器を選択すべきでしょうか? 家庭でのエネルギー需要量とその時系列パターン(つまり使い方の癖)がはっきりと事前に分かっていれば、数理的にきちんと最適なシステムを選定し、運用することが可能です。

図5 全国10地域の家庭のエネルギー需要に対するPEFCコージェネレーションのCO2排出量削減特性(4
図5 全国10地域の家庭のエネルギー需要に対するPEFCコー
ジェネレーションのCO2排出量削減特性(4)

例えば、図5は、国内10地域の家庭におけるエネルギー需要を実測した結果を基に、PEFCコージェネレーションシステムの最適な運用時におけるCO2排出量削減率をカラースケールで表した図(4)です。コージェネレーションの最低出力可能レベル以上の需要に対して、かつ、熱電比が整合した場合にのみ、その高性能が発揮されることが分かります。このように、家庭でのエネルギー需要は、不規則で扱いにくく、実は最も設計難度が高いものの一つなのです。

この他、システムの最適更新計画問題として定式化、評価する手法を提示して、日本における炭素税の導入がオフィスビルのエネルギーシステム更新に与える影響を評価しました。単純に炭素税を導入するだけでは効果が薄く、当初に予定された税率の15倍程度の効果があれば、ビルオーナーが高機能・高性能機器へ更新することが合理的な判断となることを明らかにしました。(5)

以上のように熱力学の基本原理の下、エネルギーシステムにかかわる適切な数理モデルの構築を基礎に、次世代エネルギーシステムにかかわる研究を、今後ますます発展させていきたいと考えています。

参考文献

(1) Nordhaus, William D., "Do Real-Output and Real-Wage Measures Capture Reality? The History ofLighting Suggests Not." In Bresnahan and Gordon (1997),p.54,1997.
(2) W. Hermann, Quantifying Global Exergy Resources, Energy, 31(12),2006.
(3) 日野俊之,天野嘉春,"蒸発脱水プロセスの超省エネルギー化を可能とするVCC技術の研究開発" 第26回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス 講演論文要旨集、31-4, 2010.
(4) 岡田強志,池田一樹,伊東弘一,天野嘉春,橋詰匠,"1000W級PEFCシステムのCO2排出量分析" 第30回エネルギー資源学会研究発表会,2011.
(5) Y. Amano, et. al., "Impact Analysis of Carbon Tax on the Renewal Planning of Energy Supply System for an Office Building", Energy, 35,pp.1040–1046, 2010.

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